兄と二人でカラマツの防風林の中を大声を上げながら走る。小枝を顔に当て涙を浮かべながら進むと、ダーンと銃声が響き、少しわくわくしながらやがて林を出る。雪の上には野ウサギが横たわり、得意げな顔の父がいる。冬場の貴重なタンパク源確保の瞬間である。
しかし、林の中に必ず獲物がいるとは限らないし、いたとしても銃弾がそれる場合もある。勢子といっても子供の足では雪があるので思ったように走れず、300メートルも進むとへとへとになる。1回で猟があれば運がよく、2回も勢子をするといやなり、愚痴を出そうものなら、父は仕方ないといった顔で家路につく。しかし、次の週になると誘われ結局出かけるのである。
年に一度は部落総出でウサギ狩をしていたことがあった。何十人かの勢子で一山丸ごとウサギを追い出すのである。射手も10人近くで、野ウサギがたくさんいた40年も前の話である。
野ウサギは野菜と一緒に煮る塩味のスープで、やわらかくなった肉の味は今でも覚えているが、それは現在シカ肉に代わっている。
ウサギは造林したカラマツの芽を食べる有害鳥獣であり、営林署が耳を100円で買っていた。針金で作った罠でも捕れると聞いてやってみたものの、かけ方が悪かったのか一度も成功したことはなく、小遣い稼ぎとはならなかった。
そのころは雪の上にはウサギの足跡がそこいらじゅうにあり、キツネはごくまれだった。いつの間にかキツネが増えるとともにウサギの足跡は消えてしまったが、たまに林の中に足跡があるとなぜか心が躍り、「止め足」を探したりする。
野ウサギは身を守るために、休む前に足跡を重ねて逆に向かい横とびをする習性があり、それを発見することはウサギが近くにいることを意味するため、狩猟者にとって重要なメッセージとなる。
北海道の野ウサギは、本州のニホンノウサギとは違いより大型の大陸産のユキウサギの亜種でエゾユキウサギである。昔の記憶だが、5キロくらいあったのかもしれない。
野ウサギの夏毛は茶系で冬は白色化するのが一般的で、巣穴を持たないための冬の保護色となっている。
ウサギは繁殖期間が長いわりに妊娠期間が短いので年に3度も出産することがある。しかし、食物連鎖の下位にいるために、成長できるのは1割程度らしい。野性の世界はいつも厳しい。